北海道の先史文化の大きな問題のひとつに、どのように北海道独自の文化が形成されたのか、またアイヌ文化はどのように形成されたのかという問題があります。アイヌ文化を特徴付ける要素の一つにイオマンテ(クマ祭り・クマ送り)があります。しかし、これまでアイヌ文化の母体となったと考えられる擦文文化には、クマを祭祀(さいし)の対象とするこんせき痕跡はみつかっていません。
一方、オホーツク文化にはクマを特別な動物として認識し、祭壇に祭る風習があります。オホーツク文化人が屋内に祭壇を作るのに対して、アイヌの人びとは屋外に祭壇を作ります。そのため、いずれの文化においても、アイヌ文化の直接のルーツと判断するための資料が不足していました。
今回、チャシコツ岬下B遺跡で見つかったヒグマ祭祀遺構は、屋外につくられていることやヒグマを主体として祭祀をおこなっていることなどの点において、オホーツク文化におけるヒグマ祭祀の伝統が、アイヌ文化のクマ祭祀の伝統へと変容していく過程を示す重要な資料であると評価できるでしょう。またヒグマの骨の集積とともに見つかった土器が、オホーツク文化の終末段階のトビニタイ文化期のものであることから、これまで謎だったトビニタイ文化期における動物儀礼の内容を理解する上でも、のちのアイヌ文化への移行を考える上でも重要な資料なのです。